女性が2人いるのだから、パンを焼くなど、ちょちょいのちょいである。

 トーニャは、冷蔵庫を開けると、タッパに入った白くドロッとしたものをとり出した。

 それは、サワードウ(酸っぱい生地)と呼ばれる天然酵母で、パンやパンケーキを焼く際に使う、言わば、イースト菌である。

 休眠させた粉のイーストを店で買うこともできるが、アラスカやユーコンの辺りでは、前回パンを焼いたときに、生地(種菌)を少し残しておくことによって、酵母を絶やさず保管している人が多い。

 種菌さえあれば、同じ酵母を半永久的に使えるからだ。

 特に、ゴールドラッシュの時代から受け継いでいる酵母などは、かなりの年季が入っていて、そこまでくると、家の家宝のようなものになり、うっかり生地を残さずに、全部焼いてしまった! なんてことになると、一家の大問題に発展するほどである。

 しかしながら、それほど昔に作られた酵母であるから、いったい何を原料に作られたものであるか、まったく謎であるし、サワー(酸っぱい)という名前のとおり、この酵母で作られたパンやパンケーキは、どこか酸っぱくて、日本人には馴染みのない味だ。

(写真クリックで拡大)

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る