第51話 気高く美しいエリザベス様はムズかしい……。

 結局、パンはフリスビーのようにペチャンコになってしまった。

 原因は、第1次、第2次発酵時の温度調整がうまくできず、発酵し過ぎて、一旦は膨らんでいたのにしぼんでしまったことだろう。

 その後の本番オーブン焼きでも、これまた火が強過ぎて、膨らむ前に一気に焼けてしまったようだ。

 コンピューター制御の現代の電気オーブンなら、スイッチ1つで、あとは焼きあがるのを待つだけなのだけど、このエリザベス様は、火の調子や温度をあれやこれやと見てやらなければならない。

 まったくもって、エリザベス様は、気高く、難しいのである。

「私を思い通りに扱おうなんて、100万年早いのよ!」と言われそうだ。

 大失敗のフリスビーパンは、味は悪くないが、すぐにもあごが疲れてしまった。

 1週間分を焼いたので、食べ終わる頃には、エラの張った顔になっているかもしれないが、当分の私たちの主食である。

 どうせ毎週のように、主食のパンを焼かなければならないのなら、やはり、ふわふわの晩餐会に出てくるようなパンが食べたい。

 こうなったら、なにがなんでもエリザベス様を手なずけ、ご機嫌を取って、今度こそは美味しいパンを焼くぞ! と、トーニャと私は、誓い合うのだった。

つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/