熱水噴出孔で暮らせるくらい進化した生物も、“生きた化石”のような生物も、今、鯨骨の周りで一緒に暮らしていることになる。
 クジラの骨は、不毛な深海底のオアシスとして、空間的にも時間的にも、今の深海の生態系を形作る「飛び石」の役割を担ってきた。藤原さんを惹きつけているのは、この特殊なオアシスの多様性なのである。

生きると死ぬとの境目を見せてくれるかも

藤原さんが水槽から出して見せてくれた、ホシムシ(星口動物)のおそらく新種。(写真クリックで拡大)

 そして今、藤原さんは、そこに生物学の原点ともいえる疑問の答えが見いだせるのではないかと考えている。

 藤原さんの生物への興味の原点は、生きているとはなにかという疑問にある。

「生きていると死んでいる、この違いは何かということです。今、まさに死のうとしている生物と、死んだばかりの生物は、物質としてはほぼ同じですよね。でも、これがあるから生きていて、これがないから死んでいるんだと、はっきりした違いを見いだせた人は、私が生物を学ぼうと思った頃にはいなかったし、今もいません」

 生物学を専攻していた大学時代は、素潜りのサークルに所属していた。印象に残っているのは、ザトウクジラやシロワニ,クロカジキだという。迫力が桁違いなのだ。

「小笠原の海でウミガメを見たときには、別の意味で衝撃を受けました。周りが『野生のカメを見たのは初めてかも』『そうかも』と会話をしていて。私の実家は岡山なんですが、家の裏には川が流れていて、そこで遊んでいれば、カメなんてしょっちゅう見かけていましたから」

 その頃、研究したいと思っていたのは、イルカ間のコミュニケーション。

「そういうことがやりたくて、水族館にアプローチしたこともありましたが手が出せなかった。それにコミュニケーションよりも生命とは何か、みたいな話のほうが面白くなってきたので」

 そこで、共生に取り組もうと思った。

学生時代は素潜りサークルに所属して海に通った。真ん中が藤原さん。(提供:藤原義弘)(写真クリックで拡大)

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る