チューチョ・デ・メヒコさんと奥さんの滝沢久美さん。チューチョさんの日本公演を当時15歳の久美さんが聴きにいったのが最初の出会いだという。久美さんはテレビ番組でメキシコ料理のコーディネートなどを手がけるほどの本格派。

 「活動していたバンドが解散することになったとき、日本からソロ活動のオファーがあったので来ました。コンサートで何度も来日していて、日本を気に入っていたんです」

 NHK大河ドラマも見るというチューチョさん。和食も好きで鰻も食べたりするけれど、「3日続くとやっぱりメキシコ料理が恋しくなる」そうだ。そんな彼にソウルフードを問うと、少し考えてこう言った。

 「モレですね」

 なんでしょう、ソレ。名前からはまったく想像できません。詳しく聞くと、チョコレートを使ったソースのことで、転じてそのソースをかけた料理をモレと呼ぶのだそう。「一番好きなのは鶏肉のモレ」とチューチョさんは言うけれど、鶏肉のチョコがけって……。怪訝な顔をしていると、奥さまで店のオーナーシェフ・滝沢久美さんが「モレ」を出してくれた。

 焼いた鶏肉にたっぷりとかかっているソース、色は確かにチョコレートだ。しかし、ほんのりと甘さが漂うものの、スパイスのような刺激的な香りも感じられる。そっとなめてみる。最初に舌が受け止めたのはピリッとした辛み。その意外性に驚いているとチョコの風味がやってきて、やがて深いコクへと変わる。甘みも苦みもうまく混ざり合っていてすごくまろやか。見た目は素朴なのに、なんて味の豊かなソースなんだろう……。
 モレを味わう表情がよほどニンマリしていたのだろう、久美さんが笑いながら説明する。

 「モレはチョコレートにいろいろな素材を混ぜて作るんです。唐辛子やニンニク、玉ネギ、クルミ・アーモンドといったナッツ、クミンなどのスパイスと、種類や分量はお店、家庭ごとに違うから、店の数、家の数だけレシピがあることになります」

モレは豚肉や七面鳥にもかけるが、鶏肉がもっともポピュラー。チョコレート色のモレは発祥地・プエブラに由来して「モレ・ポブラーノ」と呼ばれる。テピートのモレは32種類の材料で作るという

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