第5回 メキシコ、追憶のチョコソース
実はメキシコ原産の食材は多い。唐辛子、トウモロコシ、トマト、サツマイモ、インゲンマメ、アボカドなど、日本の食卓にもなじみ深いものばかりだ。唐辛子がインド料理に幅を与えたし、イタリア料理にトマトソースは欠かせない。メキシコ(アメリカ大陸)の発見が世界の食文化に与えた影響を考えると、メキシコ料理が無形文化遺産に登録されるのも頷ける。
そのメキシコの主食はトウモロコシだ。「モレを巻いて」と久美さんが出してくれたのは、トウモロコシをすりつぶし薄くのばして焼いたトルティーヤ。紀元前4000年前から食されてきたメキシコの国民食で、肉や魚介類、野菜から煮込み料理まであらゆるものを巻いて食べるという。いわゆる「タコス」である。
「タコスというと、揚げたトルティーヤに挽き肉とレタス、トマト、チーズを巻いたものだと思っている人もいますが、あれはアメリカで生まれた食べ方なんですよ。いつも食卓に出て料理と一緒に食べるトルティーヤは、日本でいうごはんのようなものですから、タコスをたとえて言うなら丼でしょうか」
ごはんに天ぷらをのせれば天丼、すき焼きをのせれば牛丼になるのと同じようなものだと久美さんは言う。「モレ丼か」。モレタコスを噛みしめながらそう呟くと、メキシコの伝統料理がなんだか身近に感じられた。

テピート
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中川明紀(なかがわ あき)
講談社で書籍、隔月誌、週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動をスタート。何事も経験がモットーで暇さえあれば国内外を歩いて回る。思い出の味はスリランカで現地の友人と出かけたピクニックのお弁当とおばあちゃんのお雑煮
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