File7 深海生物研究者 藤原義弘

第2回 深海生物はどうやって深海で暮らせるようになったのか

 その沈木の近くにクジラの遺骸があれば、そこへ移動するイガイも出てくる。クジラの遺骸は沈木よりずっと多くの硫化水素を発するので、大抵のイガイは死ぬが、中には環境に適応するものも出てくる。
 そして、そうやって深海の硫化水素濃度の高いところで暮らせるようになったイガイは、熱水域でも生きていく。

「これが、鯨骨が進化的なステッピング・ストーンにもなっているという仮説の、ざっくりとした説明です」

深海生物化のカギは「共生」

ホソヒラノマクラ(写真:藤原義弘/JAMSTEC)(写真クリックで拡大)

 仮説なので、証明が必要になる。

 ところで、藤原さんが最初の被写体に選んだ貝の名称をご記憶でしょうか。
 ヒラノマクラ。
 これは、鯨骨生物群集に見られるイガイの仲間である。
 もうひとつ、鯨骨生物群集に見られるイガイの仲間に、ホソヒラノマクラがある。

 どちらもイガイの仲間ではあるものの、微妙に異なる貝のその違いから、藤原さんは、進化的飛び石仮説を証明しようと試みている。

 キーワードは、共生だ。

 共生とは、何か。それは、別の生物同士がお互いに影響を与えながら、共存する状態のことだ。

 有名なのが、イソギンチャクとクマノミ(という魚)の共生だ。
 イソギンチャクは、触手に魚が触れると、毒針で攻撃するという性質を持っている。だから魚はイソギンチャクに近づかない。ところが、クマノミだけは例外だ。クマノミにはその毒がきかないからだ。だからクマノミだけは悠々と、イソギンチャクの間で暮らす。

 さぞかしイソギンチャクは迷惑かと思いきや、クマノミがいてくれることで都合がいいこともあるらしい。クマノミがイソギンチャクの敵を追い払ってくれるという説がある。それならイソギンチャクとしては、願ってもない話なのだ。

 この共生は、イソギンチャクとクマノミという、お互いの体はお互いの外にある共生だ。共生のなかでも、外部共生に分類される。

クマノミは悠々とイソギンチャクの間で暮らす。『ナショナル ジオグラフィック日本版』2010年1月号に掲載されたクマノミ特集(写真をクリックすると同号の紹介ページへリンクします)