File7 深海生物研究者 藤原義弘

第2回 深海生物はどうやって深海で暮らせるようになったのか

シンカイヒバリガイ(写真:藤原義弘/JAMSTEC)(写真クリックで拡大)

 シンカイヒバリガイ、という貝がいる。ムール貝と同じ、イガイの一種だ。
 イガイ類は浅いところに生息するものが多いが、シンカイヒバリガイはその名の通り、深海の,熱水噴出孔周辺に生息する。ということは、シンカイヒバリガイはほかのイガイとは異なり、高い水圧に耐えられるように、なんらかの過程を経て進化している。

 そして、熱水噴出域で生息できるようにも、なんらかの過程を経て進化している。熱水噴出域には、高い濃度で硫化水素などが湧きだしているが、それに耐えられるようになっているのだ。

硫化水素に耐える貝

 謎は、その“なんらかの過程”。
 人が獲って食用にできるようなところにいるイガイが、ある日突然、水圧にも硫化水素にも耐えられるようには、ならない。長い年月をかけ、世代代わりをしていくなかで、そういう環境にも耐えられるイガイが生まれ、シンカイヒバリガイと呼ばれるようになる。

「沿岸にいたイガイが、たとえば流木にくっついて沖に流され、そして、沈むことがあります。すると大抵のイガイは、環境の変化によって死にますが、中には適応して、生き延びるものも出てきます。沈んだ流木は、微生物に分解される過程で、硫化水素を発生させます。硫化水素は多くの生物にとって毒なので、これによってまた、大抵のイガイは死にますが、中には適応して、生き延びるものも出てきます。しかし、深海の硫化水素に富んだ環境に適応できたとしても、深海には十分なエサがありません。そこで沈木上で生き延びたイガイ類は沈木表面で硫化水素を利用して増殖した化学合成細菌をエサにしたのかもしれません。やがてそのような細菌をエラの表面に住まわせるようになり,細菌とイガイ類との共生関係が成立したのではないでしょうか」

イガイ類がどのようにして深海で暮らせるように進化したかを示した図。海の沿岸での生活から、沈木、大型動物の骨とわたりあるきながら、硫化水素をエネルギー源として栄養を作り出す化学合成細菌との関係を深めていくことで、深海生活に適応したと考えられている。右側の細胞の模式図は、イガイの細胞と化学合成細菌の共生関係がどのように変化していったかを示している。次のページ以降で藤原さんが解説してくださいます。(図:藤原義弘/JAMSTEC)(写真クリックで拡大)