File7 深海生物研究者 藤原義弘

第2回 深海生物はどうやって深海で暮らせるようになったのか

防毒マスクをして、海から引き揚げた鯨骨に立ち向かう。(提供:藤原義弘)(写真クリックで拡大)

 それなのに、コンテナに閉じこもって作業を行う。船上のほかのメンバーに迷惑をかけられないからだ。

 艱難辛苦を乗り越えての調査の結果、わかったことは、その鯨骨には、サツマハオリムシは生息しなかった、ということ。そのクジラは、飛び石たり得なかったのだ。
 鯨骨飛び石説は誤りなのか。

もうひとつの飛び石

海から引き揚げたクジラの骨を調べる。(提供:藤原義弘)(写真クリックで拡大)

 藤原さんたちは新たに浮かんだ疑問を解こうと、今度は、錦江湾内のサツマハオリムシの生息域の近くにクジラの骨を沈めてみた。2005年のことだ。

 すると、1年目から成果が現れた。サツマハオリムシが見つかったのだ。遺伝子的にはすぐ隣に暮らすものと一致。翌年には卵を持つものも見つかった。

「卵が見つかったと言うことは、たまたまその骨に付いたサツマハオリムシでも、次の世代を残せたということです。これにより、場合によっては、クジラの骨は、地理的ステッピング・ストーンとして機能することがわかりました」

 この発見は、世界初の快挙です。

 ところで、藤原さんがステッピング・ストーン(飛び石)に、わざわざ“地理的”と言葉を重ねているのには、理由がある。
 クジラの骨は、もうひとつのステッピング・ストーンでもある可能性があるからだ。

「進化的ステッピング・ストーンです」

1ページ目で紹介した美しいサツマハオリムシがびっしりと付着したクジラの骨。(写真:藤原義弘/JAMSTEC)(写真クリックで拡大)