File7 深海生物研究者 藤原義弘
第2回 深海生物はどうやって深海で暮らせるようになったのか
不毛な砂漠のような深海の底に、突如として生物が群がる熱水噴出孔。でも、そこは同時に硫化水素という“毒”の噴出孔でもあります。深海生物は、光の当たる世界から毒と闇の世界へ、どのような進化を経て移りすんできたのか? 藤原義弘さんがその謎にせまります。(写真=田中良知)
海に沈んだクジラの遺骸は、特殊な生物を呼び寄せて、そこに生物群集をつくりあげる。あちこちの海の底に沈んでいる鯨骨は、ある熱水噴出孔に暮らす生物が、そこから遠く離れた熱水噴出孔へも子孫を広げていく、飛び石(ステッピング・ストーン)の役割を果たしているのでは。
藤原義弘さんは、実験でそれを確かめようとした。2002年のことである。
場所は鹿児島県沖。大浦海岸に打ち上げられた12頭のマッコウクジラの遺骸が、薩摩半島の野間岬沖に沈められた。
「まず、鹿児島、というのが良かった。というのも鹿児島の錦江湾には湧水域があって、そこにサツマハオリムシという生物がいるんです」
クジラの骨は暴力です
当時、すでに錦江湾からおよそ1500キロ南東にある日光海山(水深450メートル)でもサツマハオリムシは見つかっていた。もし鯨骨がステッピング・ストーンとして機能するのなら、地理的にも水深から見ても、野間岬沖にはサツマハオリムシがやってきておかしくないだろう。
藤原さんはそう考えて、2002年から2010年にかけて、何度かそのクジラの骨を船に引き揚げて、調査を行った。
「覚悟した方がいい、とは聞いていました」
引き揚げた骨の臭いのことだ。この辺りの話が苦手な方は4行ほど飛ばしてください。
「ゴーグルをして、防毒マスクをして。ただ、一つ目に引き上げた骨はそうでもなかったので、こんなものなのかなと油断していたら、二つ目がひどかったです。瞬時にすべてを吐きたくなるような。臭いというより、あれは暴力です」
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