File7 深海生物研究者 藤原義弘

第1回 深海生物フォトグラファーの表の顔は

ホネクイハナムシの1種(写真:藤原義弘/JAMSTEC)(写真クリックで拡大)

 海水中で骨の中の脂やタンパク質などの有機物は、微生物によってゆっくり分解されていく。分解の過程では、硫化水素が発生する。
 硫化水素は、多くの生物にとっては有害だ。ところが、細菌の中には、この硫化水素を利用して、有機物を合成するものが存在する。これを、化学合成細菌と呼ぶ。

 生物は、この細菌の近くにいれば、細菌によって次々に作り出される有機物をエサにできる。

「ヒラノマクラはその一例です。この貝のエラの表面で増殖する化学合成細菌を、丸ごとエサにしています」

遠く離れた深海の底に、なぜ似たような生物がいるのか?

 最初に藤原さんの被写体になった生物だ。

「だからヒラノマクラは、硫化水素を求めて骨の表面を移動します。硫化水素がないと自分のエサとなる、化学合成細菌が生存できないわけですから」

 硫化水素が化学合成細菌を育み、それがヒラノマクラなどを養い、さらに、というつながりで、深海底のクジラの骨の周りに生物が集まり、広大な砂漠におけるオアシスのようになっている。
 これが肉眼で観測されたのは、1987年、カリフォルニア湾沖でのこと。

「それまでも、漁師の網に引っかかったクジラの骨などに特殊な生物がいるという情報はあったんですが、実際に確認されたのは、そのときが最初です」

 広い広い海で、クジラの遺骸を偶然見つける確率は相当、低そうだ。

「発見の2年後に、そのグループが論文を発表しました。そこに、鯨骨が“飛び石”になっている可能性が書かれていたんです」

 飛び石?