File7 深海生物研究者 藤原義弘

第1回 深海生物フォトグラファーの表の顔は

海底に沈んだマッコウクジラの遺骸。相模湾初島沖。(提供:JAMSTEC)(写真クリックで拡大)

 死してなお、クジラには存在感がある。

「もともと、深海にはあまり生物はいません。平均すると深海底では、1平方メートル当たりの生物量は数グラムほどです。ところが、鯨骨の周囲では、それが10キロ(1万グラム)近くにもなります」

クジラの骨は深海のオアシス

 ゼロ4つ分の格差。どうしてそんなに鯨骨の周囲とそれ以外とで、差が付くのでしょう。

「そもそも深海に生物が少ないのは、栄養源が少ないからです。深海底には光が届かないので光合成でエネルギーを作り出すことはできず、表層から落ちてくる生物の遺骸などに頼らざるを得ません」

 表層から落ちてくる生物の遺骸としては、クジラは最大級。

「デカいですよね。遺骸は数年では無くならないので、それをエサにする生物は、そこで長時間生きることができます。それに、骨のある部分はスカスカでも、ある部分はまだしっかりしているなど、多様な環境が併存するので、生息する生物に、多様性があります。最初に見たときには、本当に驚きました。生物もカラフルだし……、写真を撮るようになったのも、それがきっかけです」

胸にはJAMSTEC鯨骨チームの証、クジラ骨とホネクイハナムシ。デザインは藤本憲章さん。(写真クリックで拡大)

 その生物のひとつに、ホネクイハナムシがいる。藤原さんの来ているポロシャツの胸にもデザインされている。
 これは、釣りエサに使われるゴカイの一種だという。

「ホネクイハナムシは、クジラの骨の中に、植物でいう根のようなものを張り巡らせて、栄養を吸収しています。さきほどクジラはデカいと言いましたが、脊椎動物の中で最も脂の含有量が多い動物でもあります。この脂が、大事なんです」