File7 深海生物研究者 藤原義弘

第1回 深海生物フォトグラファーの表の顔は

ヒラノマクラ(写真:藤原義弘/JAMSTEC)(写真クリックで拡大)

「解剖に使う白いトレイに入れて撮っていました」

 ところが、うまくいかない。
 最初に撮ろうとしたのは、ヒラノマクラという二枚貝の水管だ。水管とは、たとえばミルガイでは一番目立つ、チューブ部分だが、ヒラノマクラのそれは、一見、イソギンチャクの触手のようにも見えて、細長くて白っぽい半透明。これを白い背景で撮るのは難しいのだ。

「それで、海水を入れたトレイに、別の用途のために用意してあった黒い背景紙を沈めて、そこにヒラノマクラを入れて、周りの人にマグライトで照らしてもらって、撮影しました」

 もちろん、水に浸かった黒い紙はふにゃふにゃに。その教訓を経て、黒いゴム板を使うようになったのだ。それが、いかにも深海な黒い背景を生み出している。
 生物全体を輝かせるライティングには、カメラから離して使えるタイプのストロボを使っている。

 それで、ひとつの被写体の撮影にかかる時間はと言うと……。

「3時間くらいかかりますね」

 これだけ時間をかけるから、あれだけの写真になるのです。
 しかし3時間というと、午前1時開始で4時まで、2時開始で5時まで。
 寝不足になりませんか。

「だから船に乗って撮影が続けられるのは2週間が限界ですね。この前の、ケープタウンからブラジルまでは、時化があって酔ってしまったのもあって、参りました」

 ケープタウンからブラジル、とは、現在も続く、有人潜水艇「しんかい6500」を乗せた支援母船「よこすか」による世界一周航海「QUELLE 2013」の、一部。
 藤原さんは今年4月上旬から5月上旬までの間は、よこすかに乗っていたのだ。

船上での撮影の様子(提供:宮﨑征行)(写真クリックで拡大)