「実は、オリバーには、娘さんがいたのよ」
「え? 50数年も、森の中で、1人で暮らしてきたのに?」
「そう……」
「じゃあ、娘さんは父親とあまり過ごしてないんだ……」
「そうね……」

 私は、きっと寂しい思いをしてきただろう娘さんを思いながら、オリバー爺さんの顔を思い浮かべた。

「どうして、娘がいるのに……」
「オリバーは、決して娘や家族を捨てて、森の住人になったのではないわよ」
「家族を捨てたわけじゃないのに、孤独な森の生活を選んだの?」

 私には、理解ができなかった。

「オリバーは、家族も森も愛していたのよ」
 トーニャはそう言うと、またカウチに腰を深く下ろし、私もなんだか、腑に落ちない気持ちでカウチに体を沈めた。

 それからしばらく、私たちは押し黙って、静かな部屋の中の1点をぼんやりと見つめるだけだった。

「でもさ……、残りの人生を娘さんと過ごすことになって、私は嬉しいな……」
「そうだね」

 トーニャも頷いた。

 彼女にとってオリバー爺さんは、森の師匠であり、祖父のような存在だった。

 10歳ほどで親の離婚を経験し、父と暮らすことができなかったトーニャも、きっとオリバー爺さんの娘さんの気持ちが痛いほど分かるのだろう。

 彼女は、極寒の森に帰ると言っていたオリバー爺さんが、病院も近い都会で、家族と一緒に暮らすことを選んでくれたことに、一番、ほっとしていたのだ。

 しかしながら私は、1人でいる森の中の孤独よりも、周りに人がいる中での孤独感のほうが、ツライ……と、寂しそうな声で言ったオリバー爺さんのことを思い出した。

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