第4回 さらに深まるウナギの危機 歯止めかからぬ資源減少

それでも値下げ?

 もう一つの懸念は、ウナギ危機の背景にある薄利多売のウナギビジネスモデルと、安いウナギを沢山食べたいという消費者の姿勢に大きな変化が見られないことだ。

 シラスウナギの高騰によってウナギの成魚の価格も高騰し、老舗のウナギ専門店の中にも廃業を迫られる例が相次いでいる。この結果、かつてはウナギ専門店で食べることが普通だったウナギをコンビニの弁当やスーパーの加工品の形で食べるようになったというここ10~20年の傾向が、さらに強まっているようだ。

 資源状況がこれほどまでに悪化し、市場には品薄感が満ちているにもかかわらず、複数の大手スーパーチェーンが丑の日を前に、ウナギ製品を値下げすることを打ち出しているのが、その一例だ。

 「国産うな重を父の日にあわせ、現在の価格から300円値下げし、990円にて販売します」、「夏場の需要期に対応し大サイズを1470円という圧倒的な低価格にて販売いたします」、「食卓で気軽においしいうなぎを楽しみたいというお客様のニーズはさらに高まっており、大サイズのうなぎの十分な供給量を確保。大サイズのうなぎ蒲焼の価格を強化することで、更なるお客様のニーズにお応えしてまいります」――。ある大手スーパーのホームページには、今年もこんな宣伝文句が並んでいる。

 既に第2回で指摘したように、ウナギはそもそもこのような薄利多売型ビジネスモデルの大量消費に耐えられるような生物ではない。「食卓で気軽においしいうなぎを楽しみたいというお客様のニーズ」が、ウナギ資源減少の背景にあることへの反省は見られない。

 ウナギの危機を前に、消費者も「安いウナギをたくさん食べたい」という姿勢を改めることが急務であるのだが、このような形で大量消費を煽るビジネスが続けば、それも望み薄だ。

 塚本教授は「天然ウナギは食べない、とらない。安いウナギを頻繁に食べるのは控え、高くても、美味しいとびきりのうなぎを、晴れの日のごちそうとして、たまに堪能するようにしよう。それがウナギ保護の重要な一歩だ」と指摘する。

 だが、そのために必要な「責任ある漁業」「責任あるウナギ業」そして「責任ある消費」のどれもが実現にはほど遠い。
 ウナギに残された時間は、どんどん少なくなっている。

つづく



公開シンポジウム『ウナギの持続的利用は可能か ――うな丼の未来』

7月22日の土用の丑の日に開催される無料シンポジウム。塚本勝巳教授や連載の著者である井田徹治さん、漁業者や養鰻業者も登壇してウナギの今と、これからの付き合い方を語り合います。

開催日:2013年7月22日(月)土用の丑
会場:東京大学弥生講堂一条ホール
会費:無料(どなたでもご参加いただけます)
くわしくはこちらからどうぞ!

井田 徹治(いだ てつじ)

共同通信社 編集委員。1983年に東京大学文学部を卒業し、共同通信社に入社。以降、環境と開発の問題を長く取材、気候変動に関する政府間パネル総会、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット(ヨハネスブルク)、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材している。著書に『サバがトロより高くなる日――危機に立つ世界の漁業資源』(講談社現代新書)、『ウナギ 地球環境を語る魚』(岩波新書)、『生物多様性とは何か』(岩波新書)など。