祝!『微生物ハンター、深海を行く』刊行 番外編

カリブ海からオラ、コモエスタス?

でも、「しんかい6500」の耐圧殻(コックピット)に潜り込んでしばらくして、上蓋(ハッチ)が閉められた瞬間、あの剥き出しの計器と鈍いチタン光沢に囲まれた閉鎖空間特有の空気感、張りつめた緊張と得も言われぬ落ち着きが混在する空気感、の中で研ぎ澄まされた集中力がワタクシを支配する「いつもの感覚」が生々しく蘇ってきたのです。

その瞬間はワタクシにとって、もう30回以上も潜航調査を経験しているにもかかわらず、とても大切で特別な時間(=「しんかい6500」による潜航調査)の始まりを意味するモノであり、ナマ中継があろうがなかろうが、そんな意識を遙かに凌駕する極限環境への探求の旅に対するココロ構えと覚悟ができた時だったのです。その「実戦モード」こそ、私自身が「リアルナマ中継」を全くリアルに感じていなかった大きな理由だと思います。

そしておそらく、ワタクシが感じるモノとはちょっと違うけれどもある意味似たような感覚を、同乗するパイロットのイイジマさんやコパイロットのイケダさんも感じていたのではないかと思うのです。彼らにとっても上蓋が閉められた耐圧殻は限られた人間だけが許される実戦の場であり、ワタクシと同じように、その瞬間から、深海有人潜水調査に携わる「プロフェッショナル」としての仕事を果たすことに集中していたように感じます。

というわけで、ワタクシを含めた耐圧殻内の3人にとってアノ日の潜航は、ナマ中継されていることは頭ではちゃんと理解していたことは間違いないのですが、実際には、陸上や船上からの問いかけがある時以外は、ほとんどそのことが頭の中から抜け落ちるほど普段通りのまさしくリアルな潜航だったのです。

それは「しんかい6500」の着水・揚収のために普段通りに働く船上の船員さん達にとっても全く同じだったのではないかと思います。そして、普段通りのまさしくリアルな「しんかい6500」による科学調査を届けるために、変なプレッシャーを与えることなく、船上でほぼ一人、当日の準備と進行をすべて取り仕切ったJAMSTECの吉澤理さん(Webナショジオにて「深海7000メートル! 東日本大震災の震源断層掘削をミタ!」を連載していたあの人です)も真のプロフェッショナルだったと断言できます。