第16回 どこまでもカッコ悪い帆船旅 パタゴニア追想記(4)

 けれどそれから2日後に、ようやく海は凪になり、太陽も出てきた。

 我々は島の岬に行って、ヴィクトリア号がすべての帆をあげて悠然と進んでいく光景を撮影した。実際には無風に近い状態だったから帆船は小さなポンコツエンジンで動いているのである。とはいえ岬から見ていると沢山の帆を張った白い船の姿はハリボテとはいえなかなかのものである。数日前まであの船室で不貞腐れた男たちが「大貧民大富豪」に熱中していた悲しい船とは誰も思わないだろう。

 その撮影が終わってから、天候が安定しているうちに、対岸の小さな桟橋のあるところまで我々はヴィクトリア号で運んで貰うことにした。

 我々はそこからプンタアレナスまでクルマで行くしかない。我々のヴィクトリア号の航海は、その5キロぐらいの穏やかな海峡を渡るだけで終わったのだった。つまりこの大仰なフネは渡し船の役しかたたなかったのである。

 我々はプンタ・アレナスから本当に航海できる1本マストのヨットをチャーターし、そのあとフォークランド諸島にむかい、キャンプしながら、そこでようやく素晴らしい数々の風景や出来事と出会うのだが、その話はまたいつか。

(撮影:椎名誠)(写真クリックで拡大)

つづく

椎名誠(しいな まこと)

1944年、東京生まれ。作家。『本の雑誌』初代編集長、写真家、映画監督としても活躍。『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞、『アド・バード』で日本SF大賞を受賞。近著の『わしらは怪しい雑魚釣り隊 エピソード3 マグロなんかが釣れちゃった篇』(マガジン・マガジン)、『そらをみてますないてます』(文藝春秋)、『足のカカトをかじるイヌ』(本の雑誌社)、『どーしてこんなにうまいんだあ!』(マキノ出版)、『ガス燈酒場によろしく』(文藝春秋)ほか、著書多数。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttp://www.shiina-tabi-bungakukan.com/