第16回 どこまでもカッコ悪い帆船旅 パタゴニア追想記(4)

 風をこわがる帆船ヴィクトリア号の日々は、このようにしてひたすら不毛の時間を過ごしていった。

 唯一の楽しみは食事だが、これがたちまち「楽しみ」でもなんでもないということがすぐにわかった。朝はキマリのようにパンとコーヒー。昼と夜はタマゴとジャガイモを炒めたものにパンとスープ。そのスープもあきらかに大袋に入ったコンソメの薄ダシだ。

 昼も夜も同じ。

 若すぎる女房はたぶん子供みたいなものでそれしか料理をつくれないのだ。

 我々は毎日陰気な船室で、自分たちが買いこんできたビールとラム酒を飲んで、同じものを食っているしかほかに方法がなかった。

 ほとんど牢獄と一緒である。

 テレビもラジオもないから最初の頃の夜は各自早い時間に寝てしまったが、人間そんなにいつまでも寝られるものではない。

 誰かが持っていたトランプで「大貧民大富豪」のゲームを始めた。退屈だからこれは3日3晩熱中した。そこそこカネが賭けられていたが3日もやっていると結局賭け金は平均化してそれぞれのもとに戻ってしまう。誰かが本質的な虚しさを感じて「やーめた」と言い、たちまちトランプはそこらにほおり投げられた。

 少し天候がいい日にディンギーでナバリーノ島の桟橋にいって、集落を散歩した。ここは殆ど軍人しかいない。

 ヴィクトリア号をクビになった5人のうちそれでもしつこく残っている3人とママゴト屋さんみたいなスーパーで再会、両者で情報交換した。

 それでわかったのはヴィクトリア号の船長はむかしダイビングで事故をおこし半身不随になってしまったそうだ。いわゆるエアエンボリズムの事故だろう。やがていくらか回復し、杖をついて歩けるようになったが、事故のときにアタマも少しヤラレタようで、それであのような傲慢で偏屈な奇人になってしまった、ということだった。