第16回 どこまでもカッコ悪い帆船旅 パタゴニア追想記(4)

前回まで:3本マストの帆船でマゼラン海峡やビーグル水道を行く。そんなドキュメンタリを撮ろうとパタゴニアのナバリーノ島に乗り込んだものの、帆船ヴィクトリア号はディズニー・シーあたりに浮かんでいる模造船をちょっとましにしたようなお粗末さだった……。

理由のわからない停滞の日々

 ナバリーノの安全な入り江の奥に隠れた帆船ヴィクトリア号は、錨をおろし、ロープで厳重に船体を陸地に固定していた。

 その船室で我々5人は、最初のうちはひさしぶりの停滞休暇を楽しんでいた。

 しかし、それにしても停滞休暇の日々が続く。船室だけでは鬱屈するからときおりデッキに出るが、外は荒れていて太陽の姿も見えない。

 ヴィクトリア号が引っ込んでいる湾は比較的おだやかだが、ひょうたんの入り口のようになった湾の外側はかなり荒れているのが見える。デッキには人の姿はなく、いつも長靴姿で不機嫌な船長も、その若すぎる奥さんも彼らの子供たちも後部の船室に閉じこもっているようだ。

 我々のリーダーがそれまで何度か「いつ出航するのか」と聞きに行ったが長靴船長は、リーダーの顔を見ようともせずいつも「もう少しだ」と答えるだけだった。

「どういう状態になったら、“もう少し”のきざしになるのか」とリーダーはめずらしく食い下がる。

「海の風が収まってからだ」

 そのとき不機嫌な船長はそう言ったそうだ。帆船が風が収まるのを待っていてどうする。誰しもそう思うわけだが、それを唯一とりなすのが悲しげな顔をした一等航海士(自称)だった。

「この船は、こうやって、根気よく海が荒れたときは入り江に入って風が収まるのを待ち、慎重に安全にはるばるバルパライソからここまでやってきたんですよ」