そう教えてくれたのは、「ラ・ブラスリー」のマネージャー、アイハン・イルベイさん。アンスティチュ・フランセ東京は1952年に開校して以来、在日フランス人たちのコミュニケーションの場として歴史を重ねてきた。さらに、1975年にはフランスの子どもたちが通うための学校が近くに設立され(2012年に東京・北区に移転)、神楽坂界隈に自ずとフランス人が集まるようになったのだという。
それなら、ここに来るフランス人たちが求める“フランスの味”もきっとあるだろう。イルベイさんに尋ねると、出てきたのは長方形をした一見素朴な肉料理。ミンチ状の肉を固めているようで、ミートローフによく似ているが温かい料理ではなさそうだ。
「テリーヌ・ド・カンパーニュ。前菜でもっとも伝統的な家庭料理です」
なんだかオシャレな響きの名前だが、「カンパーニュ」はフランス語で「田舎」という意味。その名のごとく、これを食べると子どもの頃、故郷で家族と囲んだ食卓を思い出すのだとイルベイさんは言う。
「昔、母がこれを切ってお皿に乗せてくれるのが楽しみだったんです」
聞けばテリーヌ・ド・カンパーニュは母の味だという。さっそくナイフを入れてみる。身がぎゅっと詰まっていてなかなかの弾力だ。豚肉のようだが臭みはなく、ほのかなハーブの香り。シンプルに見えて、かむほどに広がるうま味にはいくつもの素材が折り重なった深みがある。