日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2012でグランプリを受賞した動物写真家、前川貴行さんの個展が、米国ニューヨーク市のギャラリーで始まりました。初日の6月13日に開かれたレセプションに参加してきましたので、その模様をお届けします。(文・写真=藤原 隆雄/日本版編集部)

 個展会場のSteven Kasher Gallery(スティーブン・キャッシャー・ギャラリー)があるのは、マンハッタンのチェルシー地区。たくさんのギャラリーが集まった、ニューヨークのアートの中心地です。すぐ近くには、2011年4月号で特集したマンハッタンの空中公園「ハイライン」が見えます。

個展が開かれてるスティーブン・キャッシャー・ギャラリーは、左のれんが造りの建物の1階。右の高架は、ニューヨークの空中公園「ハイライン」。

 れんが造りの建物の1階がギャラリーです。白い石材を使ったスタイリッシュな外観を眺め、ガラス扉から入っていくと、正面に「Maekawa」の文字が見えてきました。

入り口には「Maekawa」の文字が見える。展示作品のプリントは凸版印刷が担当した。

 展示されているのは、全部で24点。ハクトウワシやホッキョクグマ、ニホンザル、トラなど、前川さんの13年に及ぶ活動の代表作が並び、多くは横153センチ・縦101センチの大判にプリントされています。受賞作「密林のチンパンジー」のように、動物だけでなく周りの環境も緻密に表現した作品は、この大きさで見ると細部までじっくり堪能できます。

白を基調としたシンプルな室内に、合計24点が展示されている。

 動物の魂や生命力がにじみ出た作品を撮りたいと、イノシシやハクトウワシ、クマなどをテーマにした写真集を発表してきた前川さん。そうしたネイチャードキュメンタリーの作品をニューヨークのアートギャラリーでどう見せるのか、私はとても興味がありましたが、展示を見ると、それぞれがアートとしても魅力的な作品になっていると感じました。

スティーブン・キャッシャーさんと前川さん。受賞作「密林のチンパンジー」の前で。

 「ネイチャー写真は外の世界を表現するものですが、アートは内なるソウル(魂)を表現して、見る者を啓発し、人の感情に訴えかけてくるものだと、私は思っています」。そう話すのは、ギャラリーを運営するスティーブン・キャッシャーさん。「マエカワさんの作品は、その両方を見事に表現しています」

 そのような感想を抱いたのは、キャッシャーさんだけではありません。6月13日の午後6時から開催されたレセプションには、招待客だけでなく、通りがかりの写真好きたちがたくさん訪れましたが、そうした人からも同じような感想を聞いたと、前川さんは言います。「動物の表情に気持ちが表れていると言われたのが嬉しかったですね。自分の伝えたいことが、ちゃんとアメリカの人たちに伝わっているんだと思いました」

来場者の質問に答える前川さん。

 前川さんは個展の開催に先立って、ワシントンにあるナショナル ジオグラフィック協会本部を訪れ、本誌英語版の写真編集者に面会する貴重な機会を得ました。作品を見せたところ、そこでも、自分の伝えたいことが理解されていると感じたそうです。「写真をひと目見ただけで、僕の表現したいことだけでなく、その撮影がいかに難しいかまで理解してくれたんです。自分の作品を的確に評価してもらえて感激しました」

撮影に応じる前川さん。写真は地獄谷のニホンザル。

 レセプションは盛況のうちに終了しました。6月15日には地獄谷のニホンザルの写真が1点売れたほか、CNNのブログABCNews.comなど、海外のインターネットメディアでも報道され、出だしは順調です。6月29日までの開催期間のなかで、どれだけ多くの人々が訪れ、何枚の作品が売れるのか、私はとても気になるのですが、前川さんの興味はそんなことよりも、すでに次の仕事に向いています。

 「セレモニーは終わりましたが、これから撮影や写真展が続くので、ひと区切りついた感じはしません」と前川さんは話します。ニューヨークから日本に帰国した数日後には、カナダに向かってハクトウワシの撮影を再開、それが終わると今度はアフリカのカメルーンへ撮影に行くほか、8月末には日本でグループでのチャリティー写真展、9月後半からは新たな個展が控えています。「これで満足しているわけではありません。ニューヨークでの個展をきっかけに、米国から仕事を受けられるよう自分から動きたいですね」


日経ナショナル ジオグラフィック社では、今年も写真賞の募集を開始しました。グランプリ受賞者の個展を来年、ニューヨークの同ギャラリーで行う予定です。

◆日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2013 募集の概要
/nng/photo/photo_award/2013.shtml