「争いは常にあって、他の生き物を絶滅に追いやって……でも、一方で純粋にやっぱり世界中に広がっちゃったホモ・サピエンスってすごいじゃんと思ったり。それと、やっぱり国境線が引かれる前の時代っていうのがあって、そこをぼくは見たいんです。国境ができて、僕らの観念は変わったわけだけど、そうじゃない時代もあったっていうことは、訴えたいですね。国境を消せとか、そういう意味じゃないんですけど」

 人類学は、人間の起源や歴史を明らかにする、まさに我々についての学問だ。それゆえ、注目度は高い。海部さんは、あくまで研究者として、「国境が引かれる前の時代」を探究しつつ、その研究の過程で到達した認識をこんな風に語ってくださった。

「しょせん僕ら人間は知能が高いと言っても、基本的に自分の経験したことしか知らないから、その範囲でしかものを考えられない。生まれたときから国境があって、それが民族や集団を規定する動かぬ境界線だという観念の中で育てば、それが普遍的だと思いこんでしまうかもしれないですよね。でも人類学の研究をすることで、それと異質な過去があったんだと、意識するようになったんです。その過去の姿を、人類学の研究で追及したいと思ってます。一方で、だから現代人はこうあるべきだというところまで提言するのは、必ずしも人類学者の仕事じゃない。でも皆がそれを考えるための材料を、人類学者の立場で提供できたら本望ですね」

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おわり

海部陽介(かいふ ようすけ)

1969年、東京都生まれ。独立行政法人国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ・研究主幹。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 進化多様性生物学大講座・准教授。理学博士。1992年、東京大学理学部生物学科(人類学専攻)を卒業。95年、同大学院理学系研究科博士課程を中退し、国立科学博物館人類研究部研究員となる。2007年、東大准教授を併任、現在に至る。「アジアにおける人類の進化・拡散史の研究」で12年度の日本学術振興会賞を受賞。『人類がたどってきた道―“文化の多様化”の起源を探る』(NHKブックス)の著書、『人類大移動 アフリカからイースター島へ』(朝日選書)の共著がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

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