第15回 ときにはカッコ悪い旅 パタゴニア追想記 その(3)

とんでもないヴィクトリア号

 やがてその理由はわかってくる。この帆船の名、なんといったか、ずいぶんイメージの違う、そうだ!「ヴィクトリア号」だった。

 そのたいそうな名前の船にむかって丘の上の男たちは「このクソ船」「死んじまえ船長」「陸にあがったらコロす」「すぐさま沈め」などと罵倒し続けているらしいのだ。

 彼らがいままでこのヴィクトリア号の船員であったこともしだいにわかってきた。

 ではどうして今、彼らが丘の上から石を投げ、汚い言葉で罵倒し続けているのか。

 さらにわかってきたのは、彼らはこの湾でヴィクトリア号をクビになったらしいこと。しかもそれまで船員として乗ってきた給料をまったく払わずにクビにしたらしいこと。

 こういうコトは普通双方に理由があり、片方だけの意見では真相はわからないものだが、そのこともわりあい早くはっきりしてきた。

 実はこのヴィクトリア号の船長はそうとうの変わり者であり、病的なケチであり、ペテン師であり、癇癪持ちであり、さらに何かの「おたずね者」でもあるらしいのだ。それがどうして我々の乗る帆船として契約したのか。そのことも間もなくわかってきた。日本にいる我々のチームのリーダー(日本人)にドジな奴がいたのだ。彼はそのちょっとした記録ドキュメンタリのプロデューサーだったのだが現地には来ず交渉だけやっていた。そして日本にいるあいだにマゼラン海峡やビーグル水道を行く帆船を探していた。

 その噂をきいて名乗りをあげたのがヴィクトリア号の船長だったのだ。しかしその日本人プロデューサーはどうやらよく調べもせずに契約してしまったようだ。