「車は駐車場に止めれば良いよ」
「車はないので、大丈夫です」
「誰かに送ってもらったのか?」
「いえ、カヤックを漕いできたんです。フォール湖から。いま、岸に止めているのですが、明日までここに置いて良いですか?」
明日以降はどうするのかと聞かれたら困るなと思いましたが、トムは特に気にする様子もなく、「ああ、もちろんさ。ここはきみの場所だからね」といって、トイレやシャワーの位置を説明すると、メインロッジに帰っていきました。
ぼくはさっそくカヤックと荷物をキャンプ地まで運び、テントを張って、昼食をすませました。
ぐずぐずしていると日が落ちてしまいます。
そこで、ジムの家の写真を手に、すぐに出かけることにしました。
<今日中に家を見つけてしまわないと……>
砂利道を歩いてロッジの入り口までくると、巨大なムースの彫り物をした木の看板があり、アスファルトで舗装された道路が左右に続いていました。
一応は2車線の道路ですが、道幅は狭く、車の行き来もほとんどありません。
手書きの絵地図から予想するに、ここからさらに南にジムの家があると踏んだぼくは、その道路を右に進むことにしました。
くねくねと曲がりながらつづく道路。
両脇の土手には緑の草が生い茂り、白や黄色の見慣れない花が一面に咲いていました。
土手の外側はすぐに森となっていて、ときどき家の入り口らしき小道が、道路の脇から枝のように伸びて、木立の中へと続いていました。
住所を示しているのか、小道の入り口には必ず数字の書かれた標識がありました。
しかし、どの家も敷地が広く、道路からは建物の姿が見えません。もちろん、道路脇に呼び鈴なんて見当たりません。