「ここで降りても良いですか」と聞いてみると、「もちろんさ」という返事が返ってきました。
予想した通り、ここは「ノース・カントリー・ロッジ」という名前の、釣り客やカヌーイスト向けのロッジだったのです。
「キャンプできるところもありますか?」
「ああ、奥にキャンプ場があるよ。なかに事務所があるから、そこで聞いてみな」
ぼくは桟橋の脇の、砂利を敷きつめた浜に上陸して、カヤックを湖から引き上げると、流されないようにロープで木に縛りつけました。
敷地内には、茶色に塗られたバンガローのような木造の小屋がいくつも立ち並んでいます。
そのなかにメインロッジと書かれたひと際大きな丸太小屋を見つけました。
<ここが受付かな……>
木の扉を押して建物に入ると、中は薄暗く、ひんやりとしていました。
壁には公衆電話がかかっていて、ジュースの自動販売機もありました。
目の前のガラスケースのカウンターには、色とりどりのチョコレートやキャンディーがぎっしりと並んでいます。
ウィルダネスから出てきて、久しぶりに見る現代の品々に取り囲まれると、これまでの旅が夢だったかのような、ふしぎな気分がしました。
しかし、そのカウンターの向こうの壁に目をやったとたん、ぼくははっと息を飲みました。
そして、ここがやはり原生林の奥地であるという事実を再確認しました。
なぜなら、その壁には、見たこともないほど巨大な生物の、頭部の剥製が掛けられていたのです。
馬のように大きく細長い顔に、垂れ下がった鼻、そして、不釣り合いなほどつぶらな瞳。
何より目を引いたのは、頭に生えた巨大な2本の角でした。