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- ナショナルジオグラフィック日本版
- 2013年6月号
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モザンビーク 聖なる山の再生
長期の内戦で荒廃したアフリカ、モザンビークのゴロンゴーザ山。その自然を再生する動きが拡大している。
アフリカ南東部の国、モザンビークには、こんな神話が伝わっている。
大昔、神は人間と一緒に山で暮らしていた。だが、当時の人間は巨人で、神に気やすく願い事ばかりしていたので、ある日神は嫌になって、天界へと引っ越してしまう。
それでも人間たちは、山頂から手を伸ばして天界の神をわずらわせ続けたため、神はとうとう巨大だった人間の体を小さくしてしまった。以来、人間の暮らしは楽ではなくなったという。
動物のいなくなった山
この山、つまり標高1863メートルの巨大なゴロンゴーザ山が、神の恩恵を失ったことは間違いない。この山麓地帯は国立公園に指定されていて、かつては世界屈指の生物多様性を誇っていた。ゾウやアフリカスイギュウ、カバ、ライオン、イボイノシシ、アンテロープといった大型動物が闊歩していた。
だが、ここが内戦の舞台となったのを契機に、その多くが姿を消してしまう。
1975年、モザンビークはポルトガルから独立を勝ち取ったが、数年後には激しい内戦が始まり、それは15年以上も続いた。
1960年に植民地政府が設立した国立公園は戦場と化し、本部事務所も観光施設も破壊された。
内戦が終結し、民主的なモザンビーク政府が安定するまでの10年間、ゴロンゴーザ国立公園は荒廃したままだった。
この国に興味を抱いていた米国の企業家グレッグ・カーは、その間、支援する方法を模索していた。そして、インターネット・サービスなどで巨万の富を築くと、2004年に公園の再生計画作りを支援する取り決めをモザンビーク政府と締結。自ら再生に着手し、費用の大半を私財でまかない、多くのプロジェクトを成し遂げた。
モザンビーク観光局は現在、公園の管理と開発に関する長期的な提携をカーと結んでいる。
24時間限定、みんなでいっせい生物調査
だが、傷ついた公園を元に戻すのは、新しい公園を建設するよりもはるかに困難だ。公園内でも、とりわけゴロンゴーザ山は危機的状況を脱したと言える段階ではない。
内戦中に横行した略奪から逃れようと、農民たちは山の上に向かって少しずつ畑を移動していった。やがて山頂の雨林まで追いやられた彼らは、高木を切り倒し、水分をたっぷり含む肥沃な土壌をトウモロコシやジャガイモの畑に変えていった。そのため、この10年間で雨林の3分の1以上が消滅してしまったのだ。
ただ、最近になってようやく動物たちが戻ってきた。2010年にモザンビーク政府が、一帯の水源であるゴロンゴーザ山を公園に編入したことも大きい。
ゴロンゴーザ山における生物多様性を調査するため、グレッグ・カーと私は山裾に住む人々を巻き込んで「バイオブリッツ」を実施することにした。バイオブリッツとは、一定の時間(通常は24時間)内に一定の地域内で見つかる生物の種を特定し、記録する調査だ。地元の子どもたちの参加を募った。
※ナショナル ジオグラフィック6月号から一部抜粋したものです。
筆者のE・O・ウィルソンは、今年で84歳になる生物学者。アフリカへは初めて訪れたというこのモザンビークの旅は2年前の夏ですが、いずれにしても80歳を超えてからのフィールドワークとなります。その学者魂は「あっぱれ」のひと言。こんなかっこいい年のとりかたをしたいものです。(編集H.O)