第4回 とある超重元素の検出装置

 半導体検出器に、新元素の原子核が捕捉されると、そこから先、どのように崩壊していくかがつぶさに観察できる。最初の段階では人類がはじめてお目にかかる物質であるわけだから、崩壊する過程で既知の元素、それも、核図表ですでに知られているマス(つまり既知の元素の既知の同位体)を経て崩壊するのが観察できればよい。ただ、崩壊のパターンは1つだけとは限らないので、そこも問題になる。

「2004年と2005年にみつけた時には、両方とも、アルファ崩壊を4回繰り返しました。113が111のレントゲニウムになり、109のマイトネリウムになり、107のボーリウムになり、105のドブニウムになって、そこで自発核分裂してボカンと2つに割れたというのが、その時の結果なんですね」

 アルファ崩壊は、原子核からヘリウムの原子核(陽子数2、中性子数2)が飛び出す現象で、つまり陽子2個分の原子番号が減り、中性子2個を合わせて質量数は4つ減ることになる。ここでは原子番号(陽子の数)に注目しているので、数が2つずつ減っている。

 4連続のアルファ崩壊の後にたどり着いたドブニウム105の性質はよく分かっており、既知の原子核と言って良い。ドブニウム105は、超重元素らしくすぐに崩壊するのだが、3分の1ぐらいの確率で核がばかっと2つに割れて一気に原子番号が小さなものになってしまう。これが、2004年と2005年に観察されたものだ。一方、残りの3分の2の確率で、さらに2回、アルファ崩壊を繰り返すパターンが起きる。確率3分の1のパターンが2度続いてしまったわけで、もうひとつのパターンも観察しないと完璧ではないと指摘された。

 2005年から7年かけて3度目の合成に成功し、その時には、さらに2回のアルファ崩壊も(つまり連続6回のアルファ崩壊)を観察できた。これにて、113番元素の合成が確定したと見られているわけである。

左は113番元素の崩壊過程を示した核図表。原子番号が2つ減るアルファ崩壊を4回起した(計マイナス8)原子番号105のドブニウムのマスが黄色と緑の2色に分かれている。これはこの先、アルファ崩壊と自然核分裂の2通りがあることを示している。右は3度の崩壊過程の図。2004年と2005年は確率が低いほうの自然核分裂が起こったため、証拠が足りないとされたが、2012年の3度目にようやく6回続けてアルファ崩壊が起こるほう(ページ下)が観察された。これでようやく113番元素の合成が確定したと見られている。(画像提供:理化学研究所)(画像クリックで拡大)

原子番号113が合成される様子(動画提供:理化学研究所)

アルファ崩壊が計6回続けて起こる過程(左下から右上に進む)。2012年の3度目にようやく観察された。(画像提供:理化学研究所)(画像クリックで拡大)

つづく

森田浩介(もりた こうすけ)

1957年、福岡県生まれ。理学博士。独立行政法人理化学研究所仁科加速器研究センター・超重元素研究グループ・グループリーダー(ディレクター)、および、超重元素合成研究チーム・チームリーダー。九州大学大学院教授(理学研究院物理学部門基礎粒子系物理学)。1984年、九州大学理学研究科(物理学専攻)博士後期課程の在学中に、理化学研究所に研究員補として入所。主な研究分野は「超重元素の合成」。長年の努力が実り、2004年、日本の科学史上初めて、元素番号113の新しい元素の合成に成功した。2005年度第51回仁科記念賞受賞。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider