そっとくっつける、とはいっても、113番元素の場合光速の10%ぐらいまで加速したそうなので、日常的な感覚からはきわめて高速だ。それを、570日間にわたって続け、総計1.3×10の20乗個もの亜鉛70をビスマス209にぶつけ、やっと合成に成功したのが3回!

「軽い原子核だと融合させるのは難しくないんです。普通の大きさの、たとえば原子番号が10と50のものをそばにやると、表面が接触しただけで自動的に核融合が起きます。でも、重たい原子核になると、もう離れよう離れようとする力が強くって……それで、ものすごく低い確率になるんですね」

 その「もの凄く低い確率」が、1.3×10の20乗回のうちの3回、というわけだ。

 なお、原子核同士が、容易にくっつく場合と、難しい場合というのは一応、判定の目安があるそうだ。「原子番号の積が、大体1500くらい」が、ボーダーライン。理論的に予想できる数字なのだそうだがそれを素人が理解しようにも無謀そうな気配がしたので、ここは「そのようなもの」と思っておく。亜鉛の原子番号は30、ビスマスは83なので、かけると2500ほどになる。たしかに1500をはるかに超えている。

 亜鉛70のビームを「そっと」ぶつけて、ごく希に起こる確率イベントをひたすら待ち、そして、やっと新元素が合成されると、どうなるか。

 今度はそれを検出しなければならない。

130000000000000000000回のうちたった3回!(写真クリックで拡大)

つづく

森田浩介(もりた こうすけ)

1957年、福岡県生まれ。理学博士。独立行政法人理化学研究所仁科加速器研究センター・超重元素研究グループ・グループリーダー(ディレクター)、および、超重元素合成研究チーム・チームリーダー。九州大学大学院教授(理学研究院物理学部門基礎粒子系物理学)。1984年、九州大学理学研究科(物理学専攻)博士後期課程の在学中に、理化学研究所に研究員補として入所。主な研究分野は「超重元素の合成」。長年の努力が実り、2004年、日本の科学史上初めて、元素番号113の新しい元素の合成に成功した。2005年度第51回仁科記念賞受賞。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

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