第3回 「光速の10%でそっとくっつける」超重元素合成

 閑話休題。

 さて、亜鉛70のビームをぶつけるには、実際どんなふうにするのか。

 まず、基本的なこととして、加速器は電場によって粒子を加速するので、大元の物質は帯電したイオンの状態になっていなければならない。

「我々が使ってきたのは、ECRイオン源という強力なビーム源です。まず亜鉛70を酸化物にして焼結して、お茶わんの磁器みたいな状態にするんです。その表面を高熱のECRプラズマというもので叩いてやると、亜鉛70の原子が熱で飛びだしてきて、さらにそのまわりの電子が剥ぎ取られイオンになる。そして、亜鉛70の電子が10個ぐらい剥げたくらいのやつを加速器に導いてやります」

 加速器というと、原子核物理どころか、もっと高エネルギーを要する素粒子物理の実験をつい思い起こす。できるだけ高速でぶつけて、きわめて高いエネルギー状態でのみ存在し得る粒子を観測する類のものだ。ただ、ここではかなり勝手が違う。森田さんは、「そっとくっつける」と表現した。

「目標とする物質は、ちょっとでも余計なエネルギーを与えると核分裂したくてしようがない不安定なものですので、なるべくそっとくっつけたいんですよ。原子核と原子核ですので、両方プラスの電荷を持ってます。近づいてくると、ターゲットは反発力で逃げるんですね。だから、逃げるよりも遅いと表面がくっつく前に離れていっちゃう。でも、ちょっとでも余計なエネルギーを与えてゴンとぶつかるとすぐに核分裂になっちゃうんで。ちょうど追いかけて、逃げていって、近づいて……表面と表面がそっと触るくらいの衝突をさせるんです。核表面と核表面がくっつくと、原子核同士の核力が働き始めるので、そこですっと入るような融合を目指すんですね」

理化学研究所仁科加速器研究センターが誇る重イオン線形加速器「RILAC(ライラック)」の概略図。その名の通り、主に重いイオンに用いられる直線的な(線形)加速装置だ。黄色で示された中ほどの大きな6個のブロックがイオンを加速する「高周波共振器」で、右側の「ECRイオン源」で発生したイオンが、ここを通過するたびにスピードアップし、次のCSM加速タンクに入る。詳しくはこちらをどうぞ。(画像クリックで拡大)