第40話 これは!『南極物語』で見たシーン。脱走犬、ズート。

 その瞬間、がっしっ!

 トーニャは、ズートの首根っこをつかんで、一瞬で逮捕。

 そしてそのまま、強制送還されたのだった。

 首輪抜けが成功して、自由になったのだから、森にでも逃げればいいのに、と、私はふと思ったが、またその瞬間、そうだこのドッグヤードの犬たちは、繋がれた奴隷や囚人ではないのだったと思い改めた。

 逃げるための首輪抜けではなく、遊んで欲しくての首輪抜けなのである。

 そんなズートは、実は首輪抜けの名犬……。いや褒めてはいけない、首輪抜けの常習犯だったのだ。

 トーニャは、地面に落ちていた首輪をズートにつけると、私に言った。

「見て、この子は、首輪抜けが得意だから、首輪を2つ付けるのよ」
「本当だ……、気がつかなかった……。それにしても、首輪の2つ抜けだなんて、ほとんど、知恵の輪的天才だ……」

 私は笑いながらそう言うと、トーニャはズートの首輪の穴を1つ詰めて、きつく締め直した。

「あ! そのシーン、どこかで見たことある!」

「何だっけ……、あ~、『南極物語』だ~」

脱走犬ズート。(写真クリックで拡大)

つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/