第40話 これは!『南極物語』で見たシーン。脱走犬、ズート。
ドッグヤードを2分するように、真ん中に1本のワイヤーを張ることになった。
長さにして、15メートルほどだろうか。
ワイヤーには、枝分かれのように何本ものチェーンが付けられていて、犬を繋げるようになっている。
これは、犬たちを橇に繋ぐ前後に、一旦、繋ぎ止めておくためのもので、ここで、ハーネスを付けて走る準備をしたり、走ったあとの食事をさせたりすることになる。
スティーブは、ワイヤーの両端を杭で留めると、特殊な器具を持ってきて、キコキコとワイヤーのテンションをかけはじめた。
「これは、ピンと張らなければならないんだよ」
そう言うと、スティーブはギターの弦でも弾くように、指で締まり具合を確かめる。
このドッグヤードでも、大人しいオスのアーセルは、まだ幼犬だった頃、緩んでいたワイヤーに足を絡ませて、指を切断してしまった。
だから、そんな事故を2度と起こしてはならないと、スティーブは何度も、ワイヤーの張り具合を確かめた。