第39話 古き良きアラスカの知恵に、目が点!

「これは、暗闇の中でも、手元を見ないで確実に結ぶやり方なんじゃよ。アラスカの冬は、太陽が出ない暗闇に包まれる。だから、目に頼らない結び方なんじゃ」

 私はそれを聞いて、目を見開いた。かつて、こんなにも衝撃的な教えなど、他にあっただろうか…………。

 心に、一瞬の閃光が走り、私は何かに目覚めたような気がした。

 目に頼らない。
 それはまさに、冬に太陽の出ないアラスカらしい技術だ。

 私たちは、電灯を煌煌と照らすことが当たり前になり、光に頼り過ぎていることを改めて考えさせられた。

 私は、このオリバー爺さんの舫い結びのやり方を覚えることにした。

 もともと視覚を必要としていないやり方であるため、そのプロセスは単純明快で、本に載っている基本的なやり方よりも、断然効率がいい。

 どうして、こんなにも良い方法を、海山各界で教えないのだろうか? とも思った。

 私はこのやり方を、勝手にオリバー式ボウラインと呼んでいる。

 それからというもの、登山家やヨットマン、アウトドア専門家などの知人を捕まえて、
「この舫いの結び方、知ってる?」
「え? 知らないの~???」
 と、オリバー爺さんの笑顔を思い浮かべて、言うのが楽しみになった。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/