ぼくは船の揺れるタイミングに体の動きをあわせないと自分の2段ベッドになかなか上がれない、というもどかしくも不思議な体験をした。

 ほぼ1日走ったあたりでリエンテール号は微速状態になった。いつのまにか荒波が少しおさまっていたのは、目の前にいくつかの島影が見え、それが波を鎮める働きをしていたからだと知った。

 いきなり現れた遠い島影。それがケープホーンから100キロほど南下したあたりにあるディエゴ・ラミレス諸島である、ということをフェルナンデスが教えてくれた。

 北側にある3つの小さな島と南側にあるそれより大きなひとつの島によって構成された地球最南端の島々である。その島のひとつにやはりチリ海軍の兵士が3名駐屯していて、リエンテール号の任務は、その3人を回収し、あらたな交代要員3名を降ろしてくることである、ということをそこで初めておしえてもらった。しかし最初の日は途中でまた風下の海域も波が高くなりゾディアック(※)が降ろせない、という理由から再びケープホーンにもどらねばならなかった。聞けば今回回収される兵士は1年間の勤務だったという。待ちに待った迎えの船が目の前まできてまた戻っていってしまうのを彼らはどんな気持ちで見ていたのだろうか。

 この話を聞いて、かれらと交代する新しい3人の兵士が誰なのかすぐにわかった。航海中、ずっと黙りがちで陰気な3人がいたのだ。彼らは間もなくまた1年の、文字どおりの「島送り」になるのだから陰鬱な気持ちになるのもわかる。

※レスキュー艇などにも使われるゴムボートの一種。

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