地球最南端のマリアさま
こういう事は、特別な軍事関係のルートにある国以外、当時の世界の人々はほとんど知らなかった筈だ。ケープホーンといったら多くの船乗りが、どんな手段にせよ、その岬を回って太平洋もしくは大西洋に出ていくことを夢の目標にしていた、その象徴としての存在で、軍事目的の武装された岬である、などということは誰も想像すらしなかった筈だ。
しかし軍艦リエンテール号の艦長はたいへん太っ腹な人で、そのある種「秘密基地」であるはずの岬の上の風景などの写真を撮ることを許してくれた。
強風によってみんなL字をサカサにしたような恰好で生えているナンキョクブナや這い松の中の高射砲などの写真は撮らせてくれなかったが、兵舎などの各種の建物や、そこを動きまわる兵士らの写真を撮るのは自由だった。とりわけ感慨深かったのは、最南端の崖寄り、つまりいちばん「南極寄り」のところに建てられている小さな荒っぽいつくりの丸太建築の教会だった。
6メートル四方ぐらいのその中は正面にマリアさまの彫像があった。小さな窓から斜めに光が差し込み、それは実に美しい光景だった。当時、その教会は間違いなく世界最南端の教会であった。