オオカミはとにかく警戒心が強いことで知られ、まず簡単には、人前に姿を見せてくれません。

 もし人間を食べにくるのであれば、写真を撮るためにオオカミを探しているぼくなんて、すでに格好の餌食になっていてもおかしくありません。

 湖畔でのんきにひなたぼっこでもしていれば、向こうから近づいてきてくれてもいいはずなのに、13年がすぎたいまでも、満足のいく写真が撮れていないのはなぜなのでしょうか。

 オオカミが食べにくるというイメージが蔓延しているのは、だれもが子どもの頃に耳にする『赤ずきん』や『3びきのこぶた』などの童話の影響が大きいのです。

 ヨーロッパやモンゴルの、遊牧民や酪農家にとって、オオカミは、大切な財産である羊や家畜を奪う、まさに人類の敵にほかなりません。

 オオカミの邪悪なイメージには、彼らの長い歴史のなかで育まれた、深い憎しみが潜んでいるような気がします。

<悪さをしたら、オオカミに食べられるぞ。1人で森に行くと、オオカミにさらわれるぞ……>

 しつけのために子どもの頃からずっと、そんな言葉を聞かされ続ければ、その恐怖心は深いところに根付いてしまい、簡単に取り除くことは出来ません。

 しかし、1999年にノースウッズにきてから、ぼくの知る限りでは、北米で健康な野生のオオカミによって襲われたかもしれない死亡事故が2件起きていることも事実です。

 2005年11月には、カナダのサスカチュアン州で22歳の男性が、2010年3月には、アメリカのアラスカ州で32歳の女性がジョギング中に亡くなっています。

 どちらも目撃者はなく、オオカミに襲われた形跡があったことで、それが死因かもしれないとされているケースで、確実な証拠はありません。

 数字で命の重さは計れませんし、1件でもあれば恐怖を感じるには十分です。

 しかし、この数を冷静に見つめてみると、オオカミの危険性をどう考えるべきなのかが見えてくるかもしれません。

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