第1回 不老不死と狂気から始まったアンチエイジング

正倉院に残るアンチエイジング研究の痕跡

 正倉院には奈良時代に60種類以上の薬物が収められ、1300年以上のときを経て、今でも38種類が現存する。その中には、マンモスやサイ、ゾウといった動物の歯・角・化石、さらに現在では使われなくなった鉱物性の生薬が8種類もあり、ヒ素を含んだ「雄黄」も残っている。使い道は不明だが、始皇帝の不老不死思想を思い起こさせる。

 奈良時代は日本でも道教をベースにした不老不死の研究がさかんで、鉱物や化石の生薬が実験に用いられた可能性も高い。

 不老不死、永遠の命への探究心は、過激になれば人の命を奪うが、一方で漢方薬、フィトセラピー(植物療法)、アロマテラピー、香道など、マイルドな形に変化して、貴族社会を中心に広く社会に受け入れられ、定着していった。

 その後、永遠の命を求める思想よりも、社会に蔓延する伝染病をはじめとする病気の治療に関心が高まり、医学がめざましいスピードで進歩していった。

成長ホルモンによる若返り 研究結果重視の医学に昇華

 時代は大きく飛ぶが、不老不死からアンチエイジングへと大きな変革を遂げたのは1990年。アメリカの医師が行った成長ホルモンによる若返り効果の実験が医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に紹介されたことがきっかけだ。12人の健康な男性に成長ホルモンを注射したところ、体脂肪、コレステロールが低下し、筋肉量が増えたという研究結果が報告され、成長ホルモンによる若返りが注目された。