特集ダイジェスト

人種差別、独裁政治、貧困、暴力――。幾重もの苦難を乗り越えて、立ち上がろうとする人々の姿を追う。

 アフリカ南部の内陸に、独裁と暴力の国がある。ジンバブエだ。

 1980年の選挙でジンバブエ共和国が成立し、ロバート・ムガベが初代首相に就任すると、以後、彼は暴力と恐怖によって人々を支配してきた。

 米国の外交専門誌『フォーリン・ポリシー』は2010年、ムガベを世界最悪の独裁者ランキング第2位に選んだ(第1位は北朝鮮の前指導者、金正日)。2012年には、米国のNPO「平和基金会」による失敗国家ランキングで、ジンバブエは世界第5位とされた。

横行する暴力

 この国で「民主変革運動(MDC)」を率いるモーガン・ツァンギライは2000年以降、幾度となく逮捕されている。ムガベの手先に殴り殺されそうになったこともある。建前上は言論の自由が保障されていても、権力の座にある者は、自分たちの都合のいいように法律をねじ曲げる。いつどんな形でムガベが政権の座を降りるにせよ、独裁支配の後遺症が癒えるまでには長い時間がかかるだろう。

「暴力の歴史を乗り越えようにも、それについて語ることができなければ、道筋も見えてきません」と、33歳の劇作家タファズワ・ムゾンドは言う。「貧しさと恐怖に支配され、言葉まで奪われたら、人々は生きる希望を失います。つまり今進行しているのは、大量殺戮と言ってもいい」

 かつてジンバブエの識字率は90%以上で、アフリカでも最高レベルだったが、今やその比率は着々と低下し、2020年までに75%に下がるという予測もあるほどだ。外国人記者や人道支援の活動家がジンバブエの苦境を伝えてはいるが、このまま識字率が下がると自分たちの言葉で語り、自分たちの声を世界に届けることができなくなると、ジンバブエの人々は恐れている。

「語ることができなければ、選択もできなくなるのは、わかっています。選択ができなければ、どうなるでしょう。暴力的な圧政に永久に耐えるしかなくなるんです」とムゾンドは語る。

立ち上がり始めた市民

 こうした状況でも、ジンバブエの作家や芸術家や劇作家は、まだ諦めていない。時には痛烈なユーモアを込めて、政治的な議論を引き起こすような作品を次々に生み出している。秘密警察も取り締まりが追いつかないほどだ。ムゾンドは過去8年間に、差し迫った社会問題や政治的なテーマを扱った戯曲を6作書き上げた。「声なくして選択なし」と題した最新作は、2012年8月に上演を禁止されたが、それ以前に各地で公演を行い、熱狂的な反響を巻き起こしている。

「今の状況を生んだのは、私たち自身です。普通の市民が、隣人である普通の市民を襲ってきた。自分たちがお互いに何をしてきたのか、目をそむけずに考える必要があります。政府は私たちが話し合うことを恐れています。もし話し合ったら、何が起きると思いますか?」

 ムガベは、あまりにも多くの市民を加害者に仕立ててきた。兵士や警察官はもとより、学生まで駆り出され、レイプや拷問に加担させられた。苦しみという共通の絆で結ばれた人々が、いつか解放を求めてともに立ち上がる――そんな事態も起こり得る。

 次の選挙は2013年7月に予定されている。

※ナショナル ジオグラフィック5月号から一部抜粋したものです。電子版ではフォトギャラリーに掲載した人々を含め、市民の声を紹介しています。

編集者から

 筆者は、自身も幼少期をジンバブエで過ごしたというアレクサンドラ・フラー(2012年8月号「米国先住民の苦闘と希望」も担当しています)。ジンバブエを支配してきた暴力の歴史は読んでいるだけで胸が苦しくなりますが、悲しみを乗り越えようとする人々の姿に、希望の光を感じました。「私たちを見捨てないで、耳を傾けてほしい。私たちの物語はまだ終わっていないのです」。これはレイプ被害者の支援活動を行う女性の言葉です。皆さんもどうか、彼らの物語に耳を傾けてみてください。(編集M.N)

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