第5回 文系理系の壁を超えた新しい科学がやってくる!

 また、三中さんらの論文集で気になるのは、「社会・政治進化のパターンとプロセス」の論考だ。非常に野心的・挑発的ではないか。ここでは、オセアニア語群の各「社会」における政治組織の進化を扱っている。首長の有無など社会制度が複雑になっていく様子を系統推定の手法で考えている。このような方法で「社会」を語り得るのか、という驚きがある。

「今のところ、生物、特に人間にかかわることが中心でして、人の集団の文化と、言語の文化、それらがかなり重なり合ってるだろうと。そうすると、当然、それ以外の文化的な構築物もそのツリーの集合体に乗せられるはずだ、ということになります」

 なんと壮大な視野であることか!

 また、もう一つ重要なこととして、今挙げたようなジャンルは、世の中では大抵「文系」と認識されていて、にもかかわらず、ここで行われている分析はとても数理的であり、どうみても「理系」であることだ。文理を隔てる壁というのは、なにか社会の宿痾のようなところがあり、よく弊害が語られてきたわけだが、三中さんは、この点においても「文化系統学」の独特のポジションを強調する。

「学問分野を隔てる『文理の壁』、文系・理系の違いは幻であってもともとないよ、と。研究者・一般人の別なく、子供の頃から刷り込まれてきた先入観ですね。今のところ、文化系統学の研究は、進化生物学の応用と捉えられていますが、言語学や写本の系譜では、進化論の前からずっと似た議論をしてきたわけです。方法も見事に収斂している。今の話でいうと、例えば生物の分子系統をやってる人がソフトウェアをつくって、それを言語学、あるいは写本系統学の人が使うようになり、逆に言語学・写本系統で使われてきた方法論が生物のほうに持ち込まれたりと、双方向のやり取りがあるんですよ」