第4回 実証できない進化論ははたして科学なのか

「たしかに、当時、最善の仮説へどうジャンプすればいいのか分かりませんから、あまり使える方法論ではなかったんですね。結局、1990年代の人工知能研究で、ロボットにどういうふうにものを考えさせるのかというところで、初めてアブダクションの様式化、定式化が出てきたんです。要するに、データがあり、選択肢が幾つかあった時、どの選択肢がベストか決めるのをアブダクションと呼ぼうと。数ある競争相手、競合仮説の中から真偽に関係なくベストのものを選択するという、そんなふうな考え方です」

 ここまで来ると、アブダクションが、系統の推定と親和性が高いことは自明だろう。

 たとえば、恐竜の化石なら、骨の形態的特徴から、これらの生き物が、どのように分岐してきたのか。とりあえず今持っているデータと整合する最適のものを選び出す方法。それは、統計学を駆使するだけでなく、数学的な裏付けも必要な分野であって、20世紀の後半にまさに発展したものなのである。

詩は金子みすゞの「木」。(写真クリックで拡大)

つづく

三中信宏(みなか のぶひろ)

1958年、京都生まれ。農学博士。独立行政法人農業環境技術研究所上席研究員、および東京大学大学院農学生命科学研究科教授、東京農業大学大学院農学専攻客員教授を兼任。東京大学農学部農業生物学科卒業。専門は進化生物学・生物統計学。『生物系統学』(東大出版会)『系統樹思考の世界』『分類思考の世界』(ともに講談社現代新書)、『進化思考の世界』 (NHKブックス)『文化系統学への招待: 文化の進化パターンを探る』(勁草書房)『系統樹曼荼羅―チェイン・ツリー・ネットワーク』(NTT出版)など、著書多数。公式サイトはhttp://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/、ツイッターアカウント@leeswijzer

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider