第2回 私たちはなぜ系統樹が好きなのか

 人間は、複雑なものを、そのままでは理解できない。

 理解を助けるために、図像の言語が工夫されてきた。三中さんは、系統樹(ツリー)を「オブジェクトの持つ多様性を整理するための図像ツールとして、われわれ人間のツールボックスに常備されてきた」とする。世界が人間の認識できる範囲を超えて混沌としているように見えても(そして、その実、背後には複雑な系統ネットワークがあったとしても)その複雑さを抑えて「効率的に要約できる道具」なのである。

 今後、とりわけ分子生物学の分野などで、巨大なデータの中に潜んでいる複雑なネットワーク構造を複雑なまま相手にすることが多くなると容易に想像できる。その際に、いかにそれを切り取って、把握し、何を語り得るか、三中さんの「系統樹」についての考察がヒントを与えてくれるかもしれない。

(写真クリックで拡大)

つづく

三中信宏(みなか のぶひろ)

1958年、京都生まれ。農学博士。独立行政法人農業環境技術研究所上席研究員、および東京大学大学院農学生命科学研究科教授、東京農業大学大学院農学専攻客員教授を兼任。東京大学農学部農業生物学科卒業。専門は進化生物学・生物統計学。『生物系統学』(東大出版会)『系統樹思考の世界』『分類思考の世界』(ともに講談社現代新書)、『進化思考の世界』 (NHKブックス)『文化系統学への招待: 文化の進化パターンを探る』(勁草書房)『系統樹曼荼羅―チェイン・ツリー・ネットワーク』(NTT出版)など、著書多数。公式サイトはhttp://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/、ツイッターアカウント@leeswijzer

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider