第1回 「裏の仕事」は“系統樹ハンター”

こちらはダーウィンがメモとして書きとめた「生命の樹」。(画像クリックで拡大)

 これほど絵心に恵まれたヘッケルであるから、ダーウィンが唱えた進化論を図示する方法として系統樹を編み出すことができた、と理解したくなるわけだが、それも違う、と三中さんは言う。

「もちろん、進化論的な考え方が出るまでは、系統樹の概念もなかったはずなんですね。でも、旧約聖書の宗教的な家系図をツリーとして描くというのはよくありました。ダーウィンの頃は、まだキリスト教が強いですから、聖書に出てくるような系図の印象が強かったはずなので、そういうものとあえて切り離したくて、公表される論文などでは、系統樹を描かなかったのかもしれません」

 三中さんが指摘したキリスト教世界でしきりと描かれた宗教的な家系図で代表的なのは「エッサイの樹」だ。イエスの家系を描くために、繰り返し用いられてきた。さらに、中世の思想家アタナシウス・キルヒャーによる「大洪水後のノア以降の系図」などもその例。さらにさらに言うならば、家系図ではなく、言語や語彙の由来、様々な文書の写本の系統関係を議論するためにも、ツリー、系統樹相当の表現は活用されてきた。

シャルトルにあるノートルダム大聖堂の「エッサイの樹」。
キルヒャーによる「大洪水後のノア以降の系図」。これもエッサイの樹のバリエーション。(画像クリックで拡大)