第5回 フィリピンから台湾へ、風待ち停滞と国境の壁

微風を受けて進む縄文号(奥)とパクール号(手前)。互いに離れず航海しようとしたが、パクール号の性能が上回るため、時に縄文号を引き離して走ることもあった。(提供:関野吉晴)(写真クリックで拡大)

 2年目(2010年)の航海は最初に難関が待っていた。フィリピンのパラワン諸島とミンドロ島の間にあるミンドロ海峡80キロを渡らなければならない。最短コースでもベーリング海峡と同じ距離だ。今まではセレベス海、スールー海という、島々に囲まれた比較的静かな海を走って来たが、これからは、南シナ海に放り出される。うねりも波も大きくなるはずだ。

 私たちは5月中旬に出航するため、パラワン諸島北端のコロンにいた。出航をこの時期にしたのは、フィリピン、台湾、沖縄の風の動きのデータを読んでのことだ。
 ここ30年間のデータを見てみると、この地域は共通した風の動きをしていた。10月から4月までは北風が吹いているが、5月に風がやみ、やがて南風が吹き始める。その転換点が5月の上旬なのか、中旬、下旬なのかは年によって違うが、下旬には南風が吹き始めると読んでいた。

 しかし、甘かった。台湾や、フィリピンでも別の地方では南風が吹いているのに、コロンでは東風が多く、南風は気まぐれに吹く程度だ。今までの航海で私たちを散々悩ませた北風になることもある。ミンドロ島まで真東に走らなければならないが、東風だと真正面から風を受けることになる。私たちのカヌーは基本的に風に逆らって走れないので、なかなか出航できずにいた。