ぼくが最初に目にしたのはビーグル水道最大の開口部をもつイタリア氷河であった。アンデス山脈の壁が垂直状態で続いている各所に大小の氷河の開口部があるが、イタリア氷河は水面からの高さ1800メートル、上部の氷の河幅は2000メートルの規模だった。全体はゆるい逆三角形になっている。回しコマを横に切ったような形といったら想像しやすいかもしれない。

 この海に面した800メートルほどの氷壁が、その後ろから圧迫してくるとてつもない圧力によって、常に大小無数の氷塊を落下させていた。住宅1戸ぐらいのが高さ500メートルぐらいのところから垂直に海に落ちるともの凄い音がする。爆弾破裂のような音だ。この音に誘発されてほかの氷塊が落ちてくる。ときおり高さ100メートルぐらいの柱状になった氷のでっかいやつがそのまま倒れてくる。ビルの崩壊を見ているようだった。モレノ氷河の60メートルぐらいの氷柱が倒れてくるのと規模がまったく違う。そのあたりいたるところで轟音が響き、まさに地球規模のエネルギーの圧迫を感じた。

 オブリクオ氷河、フランス氷河、ヴォーベ氷河、ロンカグリ氷河と砲艦が進んでいくにつれて次々にいろいろなスケールの氷河の開口部が現れてくる。季節とその時間によって崩壊してくる率がかわる。ぼくはこの場所に2回行ったが、最初のこのときが一番激しかった。

氷河の氷壁。(写真クリックで拡大)(撮影:椎名誠)
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