パイロットになりたくてなりたくて、まっしぐらに進んできた若手の片桐昌弥さん、池田瞳さんとは、だいぶ違う。

 では、今はどうかというと「司令職は、潜れないんですよ」と言う。
 司令は、母船よこすかの上で、総指揮をしなくてはならないからだ。

「櫻井さんがいるときしか、潜れないんです」

 高校の先輩でもあり、しんかい6500の運航チーム総括でもある櫻井司令が総指揮を担ってくれれば、小倉さんはパイロットとして潜れるということだ。

「今は、潜りたいですよ。やっぱり潜航は楽しいです。特に今は出向の身ですし、ずっといられる現場ではないし、運航チームにいられるうちは潜りたいです」

研究者の期待に応えたい


 小倉さんは現在、JAMSTECから、しんかい6500などの運航を委託されている日本海洋事業に、出向をしている格好だ。

 潜るのは変だとまで言っていた人が、いられるうちは潜りたいと言うようになっている。
 潜る喜びは、どこにあるんですか。

「毎回、違う世界があるからですよ。まるっきり同じ潜航はないんです。それに私は自分で自分を褒める人なんでね、うまくいくと『俺って天才』とか、必ず言っていますからね」

 どんなときにですか。

「研究者の方に、あれを捕って欲しいと言われて、それが短時間でできたときですね」

 たとえば、チムニー。海底の熱水噴出孔だ。そこから湧き出ている水を採取して欲しいというリクエストがある。ゆっくりと船体を近付ける。大きな船体のどこかが、チムニーに触れたらアウト。崩れてしまう可能性がある。マニピュレータについても同じことが言える。水を採るには近くまで手を伸ばした方がいいのだが、触れてしまうと、崩してしまいかねない。素手であっても難しい作業を、研究者からの「絶対確保して」というプレッシャーの中で、窓越しに、マニピュレータを使って行う。
 それが、うまくいくと『俺って天才』となるのだ。

熱水噴出孔(提供:JAMSTEC)(写真クリックで拡大)

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