スティーブが言う。

「犬橇の指示はね、理解し易いように単純明快なものが多いけれど、マッシャーと犬が、心を通い合わせなければならないことも多いんだ。だから、人間の言っていることを、顔の表情や声の強弱、そのときの状況から想像して、ちゃんと理解できるようにならなければならないんだ」

 確かに、犬は人間の心を察することができる動物である。

 嬉しいときには、犬も喜んでいるし、悲しいときには、犬も一緒に悲しんでくれる。 

 窮地に立たされたときに、犬がそれを察して助けてくれたという話も多く聞く。

 スティーブは、犬橇を操る号令だけで犬を動かすのではなく、1匹1匹との意思の疎通を大切にしているのだ。

 リバーボートに、すんなりと乗った子犬たちも、さすがにエンジンをかける大きな音には驚いたようで、私に擦り寄ってきた。

 頭を撫でてやると、ぶるぶる震えていた。

「ま、すぐにも慣れるさ」

 スティーブは笑った。そして、エンジンの音に負けないくらいの声で言う。

「橇犬たちというのは、ドッグヤードで、生涯ずっと繋がれる生活になるからね……。子犬のうちに、人間の暮らしや営みを見せてあげる必要があると僕は思うんだ。人間というものを知るためにね。だからこれも、橇犬のトレーニングの一面なのさ」

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