第32話 春一番ならぬ、冬一番。猟犬ならぬ、漁犬の誕生?

 皮膚が切れるのではないかと思うくらいの冷たい風に吹かれながら、とりあえず、飛ばされて転がり回っている餌皿を追いかけて集めると、そそくさとロッジの中に入った。

 太いログを組んで造られているロッジの中は、一切の風の音も届かないほどに、静かな空間で、安心感に満たされた。

 寄らば、大樹の陰。

 私は床に座り、ログの壁に背中をつけて、ひと息ついていると、それもつかの間、昨夜から離れのキャビンに泊っていたスティーブが走り込んできた。

「この風で、湖が荒れているだろうから、今すぐ、リバーボートを引き上げに行くよ。手伝って!」

 いつも冷静なスティーブも、少し慌てた様子で言った。

 しかしながら、私はどこか、「まあ、海と違って、湖なのだから、そう慌てることもないだろう…」
 などと高をくくっていた。

 ところが、湖までの坂道を下りていって、目の前に広がる光景を見ると、それは、いつもの見慣れたミンチュミナ湖ではなく、まるで荒れた海そのもの。

 ザブンと波は打ち寄せるわ、少し沖に浮かべて係留させているリバーボートが、波でもみくちゃにされている。

 しかも空は、この世の終わりかと思うほどに陰気で陰鬱な鈍い鉛色をしていて、その曇天を湖面に映しながら水面が暴れている。

 これはなにか、神様の怒りにでも触れたのではないかと思うほどの光景でもあった。