合衆国憲法を最初に批准した米国デラウェア州。国立モニュメントの候補地となっている歴史遺産を訪ねる。

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米国史の知られざる舞台

合衆国憲法を最初に批准した米国デラウェア州。国立モニュメントの候補地となっている歴史遺産を訪ねる。

文=アダム・グッドハート/写真=マイケル・メルフォード

 米国では、約60カ所の国立公園を含め、400近い施設が国立公園制度で指定・管理されている。だが全米50州のなかで唯一、そうした国立施設をもたない州があった。

 東海岸のデラウェア州。ほかの州に先駆けて合衆国憲法を批准したことから「最初の州(ファースト・ステート)」と称される、米国で2番目に小さい州だ。この歴史ある州に、初の国立公園制度の施設「ファースト・ステート歴史モニュメント」が誕生しようとしている。州内に点在する歴史遺産も取り込んだモニュメントとなる計画で、他州からの遅れを取り戻す構えだ。

 その歴史遺産の舞台の一つが、全長わずか32キロのブランディワイン川だ。
 川の両岸は、ほぼ全域にわたって急斜面の林になっていて、その中にかつての繁栄をしのばせる建物が点在している。古くても築100年ほどのものだが、水力を利用して産業や技術が急速な発展を遂げた時代の名残だ。この川は、産業の振興という点で最適な水流、川幅と水深、そして大西洋岸の主な港湾までの地の利を、完璧なまでに兼ね備えていた。

米国の歴史を象徴する川

 流域の産業革命に最初に火をつけたのは、オリバー・エバンスというデラウェア出身の靴職人の息子だ。エバンスは、無名ではあるが米国屈指の偉大なる発明家で、製造業における自動化の父でもある。彼が1780年代に考案した、水車に歯車と回転軸を組み合わせた製粉機のおかげで、小麦を粉にする工程に人力がほぼ不要となった。両岸にはたちまちエバンス式の製粉所がいくつもでき、製粉機の基本原理はその後、紙製品や布製品などの製造にも応用されていった。生産工程の自動化とブランディワインバレー(渓谷)の関係は、現代のIT化とシリコンバレーの関係に似ている。

 200年が経った今、企業家たちが残したこうした遺産が、計画中の国立モニュメントの中核となっている。しかし、最大の目玉は「ウッドローン」と呼ばれる445ヘクタールの山地草原と森林だ。ここは、100年ほど前に繊維業を営んでいたウィリアム・バンクロフトが、保護するために購入した場所だ。ウィルミントンやフィラデルフィア郊外が開発されるなか、ウッドローンは、手つかずの自然が残る数少ない土地となった。

 「ブランディワイン派」として知られる芸術運動もこの地で生まれた。1世紀以上にわたってこの運動に大きな影響力をもっていたのが、ワイエス家だ。才気あふれる一族の長老N・C・ワイエスが初めて渓谷を訪れたのは1902年、まだ20歳の画学生の頃だった。やがてN・Cは、この土地がもつ独特の力強さに魅了され、ここを終の棲家に選んだ。

 N・Cは、『宝島』のロバート・ルイス・スティーブンソンをはじめ、多くの小説家のために挿絵を描いて有名になった。作品の中で、ブランディワイン渓谷の森はイングランドの森に、草原はスコットランドの荒野に姿を変えた。

 この小さな川は、米国における技術革命を促進し、ゴールドラッシュや戦争の推進力となり、著名な芸術家たちを魅了してきた。独立戦争の初期の舞台も、この川のぬかるんだ土手だった。

※ナショナル ジオグラフィック4月号から一部抜粋したものです

編集者から

 記事の最初のページに写っている、米国三大財閥デュポン家の大屋敷は、1923年建造で今も子孫が住んでいるのだとか。わずかな還付金を求め、夜なべして確定申告書を作成し終えたばかりの私には、まぶしすぎる写真です。ああ、左うちわで暮らしたい……。ところで、特集の舞台となったデラウェア州の資料を探そうと図書館やネットをあたりましたが、とにかく少ないのにびっくり! この州が現在置かれている立場を象徴しているようです。国立モニュメントの制定が起爆剤となるでしょうか? (編集H.O)

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