第31話 憧れの有名人がやってきた!
彼女たちは、遠目に犬たちの様子を確認すると、すぐにロッジの中に入って、大量の注射器にワクチンを注入する作業にとりかかった。
女性が集まっているからといって、お喋りをするわけでもなく、2人は黙々と作業をして、私はその横に座って、静かに注射器にワクチンが流れ込んでいくのを眺めた。
大量の注射器を持ってドッグヤードに行くと、犬たちはこれから、チクリと痛いことをされるのも知らないで喜びまわっていた。
「みんな、暴れるかな……?」
そんな心配もなく、犬たちは泣き叫ぶこともなく、速やかに予防接種は終わった。
ミッキーさんとジュリーさんの注射の打ち方が上手かったのだろうけれど、
いやはや…………、
逃亡を図ろうとした、ご幼少期の私よりも、犬たちのほうがよっぽど立派だった。
「みんな、偉かったなあ……」
つづく

廣川まさき(ひろかわ まさき)
ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/