「寝だめができないっていう根拠のひとつがこれなんです。今日は暇だから6時間ずつ2度寝して12時間眠りました、と。でも、それが心地よさにもつながらなければ、翌日の睡眠不足に耐える力にもつながらない」

 さらに、眠りすぎると、抑うつ的になる不思議な現象も見られるという。

「長時間睡眠の後の気分の悪さっていうのは独特で、長く寝て時間を無駄にして落ち込むとかいうんじゃないんですよ。まだはっきりとはメカニズムがわかってないんですが、睡眠を取り過ぎること自体が、ちょっと抑うつをもたらすと言われています。うつ病のときに眠れないとうつのリスクが増えるのを考えると逆説的なんですが、基本的には長く眠りすぎると抑うつ、断眠(徹夜)は気分をもちあげる効果があるんです。特に深い眠り、徐波睡眠をとり過ぎると、うつ傾向が強くなるといわれています。うつ病のときに睡眠時間が短くなったり、深い眠りが減るのは、自己調節して治癒しようとしているという考え方をする学者もいるくらいです。深い眠りを減らして、気を晴らそうとしている、と」

 このあたり、睡眠学が明らかにしてきたことの中で、最も悩ましい部分かも知れない。

 三島さんいわく──

「惰眠をむさぼるのは、もういいことは何もないっていうことですね。十分な休養をちょっと越えると、かえって副作用が出るという、見極めが難しく、紙一重なんです」

 本当に悩ましい。

 12月に紹介した「健やかな睡眠のための12の指針」にリンクを張っておく。

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おわり

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。脳病態統合イメージングセンター部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。秋田大学医学部精神科学講座助手、同講師、同助教授を経て、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員助教授。2006年6月より現職。2010年4月より日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員を務める。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

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