ウルトラエッチキューブリンケージ研究グループのメンバーも似たような印象を持っているようだった。ただ山口耕生君が言うように、アストロバイオロジーが必ずしも地球外生命探査や地球外知的生命探査(SETI)のような探査だけを目標とするのではなく、物理学や化学と同じ宇宙共通の一般的原理として生命現象を解明しようとする学問領域を目指すものだ、という考えには全面的に賛成だった。

宇宙共通の一般的原理を目指して

そんなアストロバイオロジーの持つオトナの包容力を取り入れつつ、またNASA Astrobiology Instituteの目指す方向性の理想像を模倣しつつ、約40億年前の地球生命の誕生時の地球-生命の相互作用に焦点を絞った分野横断研究(ウルトラエッチキューブリンケージ研究)を目指そう。さらには化石記録がほとんど残っていない先カンブリア紀における、生命の誕生から多細胞生物の出現までの地球-生命共進化の道筋の全解明を目指そうず。ボク達は、そんなバーチャル研究組織を提案することに決めた。

この提案書の草稿書きもホントーに楽しかった。ボク達は手分けして、現在までに知られる先カンブリア紀の重要な地球-生命史イベントの徹底的に洗い直して、ボク達がどのような新しい分野横断アプローチでこの研究領域に切り込めるかを一生懸命に考えたんだ。それぞれの分野の見解をぶつけ合い、何がわかっていないのか、何を明らかにすることができそうかを絞り込んでいった。

そしてウルトラエッチキューブリンケージ研究の時と同じように、提案書が完成した時点でボク達は例えようのない満足感を得る事ができた。ボク達は不純異分野交遊の快楽を知ってしまったんだ。一旦そのアブノーマルな快感を知ってしまうと、既存の研究分野の与えてくれるノーマルな喜びではなかなか満足できなくなってしまうのだった。

そんな背徳の喜びを知ってしまったボク達が提案した「プレカンブリアンエコシステムラボラトリー」は2007年10月にまずバーチャルラボとして発足することになった。

そのようにして誕生したプレカンブリアンエコシステムラボラトリーは激動の軌跡を刻みながら(それについては後述)、今なおその勇姿はJAMSTECの中で燦然と輝いている(震え声)。その提案書に書いた志は色褪せる事なく、ボク達の進むべき道の方向性をはっきりと照らしてくれているのだ(さらに震え声)(http://www.jamstec.go.jp/less/precam/j/index.html)。


次回、「プレカンラボ、絶滅の危機」につづく



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高井 研

高井 研(たかい けん)

1969年京都府生まれ。京都大学農学部の水産学科で微生物の研究を始め、1997年に海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者に。現在は、同機構、深海・地殻内生物圏研究プログラムのディレクターおよび、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーユニットリーダー。2012年9月よりJAXA宇宙科学研究所客員教授を兼任。著書に『生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る』(幻冬舎新書)など。本誌2011年2月号「人物ファイル」にも登場した。

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