「雪が降らないな……。今頃は犬橇で走っていてもおかしくないんじゃがの……」

 8月の終わりには新雪に覆われるマッキンリー山に近いこともあってか、10月のミンチュミナというのは、すでに深く雪が積もり、湖も凍って、犬橇の季節が始まっているのだという。

 もうすぐ10月も半ばだというのに、雪が降る様子も、湖の氷も張る気配もまったくなく、湖面には、毎日、逆さマッキンリー山が映し出されていた。

 犬たちもエネルギーを持て余していて、まるで退屈モンスターのようになって、隣の犬にちょっかいを出している。

 オリバー爺さんと話しているところに、スティーブがやって来て言った。

「雪さえ降れば、僕がトーニャの代わりに、犬橇を教えてあげられるんだけどね……」

 薪割り自体はそんなに退屈な仕事ではないが、やはり、ここに来たからには、早く犬たちと走りたい。

「昔は、今頃にはすでに雪が降って、湖は凍っておったがのお……。年々、雪が降るのが遅くなっている……」

 年老いたオリバー爺さんにとっては、このアラスカの冬は、骨身に沁みるほど辛いはずなのに、彼は晩秋の季節がいつまでも暖かいことを喜ばなかった。

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